結婚相談所からは、結婚の意志をはっきりと伝えるため、プロポーズをする決まりになっている。
やつは、しっかりとめがねちゃんが喜びそうなシチュエーションでプロポーズするようにと仲人さんから言われていたようだ。
このプロポーズについては、成婚退会した時に、どこで、どんなふうにと、根掘り葉掘り聞かれた。
おそらく結婚相談所のホームページや、パンフレットに写真とともにのせるためだ。
さて、やつは夜景のきれいなデートスポットを考えていた。風が吹き寒かった。もう結婚するのはわかっているのだから、前置きなどいらないのに、長かった。長々と話すので途中で本当にものすごく疲れたことを思い出す。
まわりは、楽しそうなカップルであふれていた。
ああ、私の現実はさえない太っちょおじさんなんだな。下を向くたび地頭?地肌が見える。薄い長い髪を上手くやりくりしているが、風が吹けば、落ち武者のようだった。悲しい気持ちにもなった。
でも、これは結婚。生活力がなきゃ。お見合い結婚なんだから。私はやつの扶養に入り、パート勤務に変更して、子供ができたら専業主婦になる。このおじさんに私の人生をかけるのだ。
やつは、細長い目をより細くしてプロポーズしている自分に酔っていた。
長々と続いた話に「はい。」と、あっさり返事したので、やつはグズグズとしばらく文句のような独り言をつぶやいていた。ひと通り文句を言い、落ち着いたのか、「めがねちゃんは、冷たいなぁ。」と、ヘラヘラ言ったので、私は、「こういう性格なので、よろしく。」と言った。
私は、年収、勤務先、仕事の役職など条件でやつを選んだ。逆に条件がなければ、絶対に絶対に結婚したくないさえないおじさん。
プロポーズから数ヶ月後、私は、やつと結婚してしまったのだ。