家電購入の罠
やつは、言葉巧みだった。
大手の会社のため、借り上げ社宅制度があった。会社が月々一万円で新築マンションを借り上げてくれた。そのマンションが立ち上がるまで約一ヶ月は別居夫婦だった。
その一ヶ月の間に、家電類を購入することになった。
二人で家電量販店に行き、洗濯機や冷蔵庫を見てまわった。やつは、洗濯機は最新のドラム式が良いといい、冷蔵庫は転勤族なので次はどんな間取りになるのかわからないので観音開きが良いと話した。
しかし、値札を見てはため息をつき、「やっぱすごく高いよね。普通ので良いし、冷蔵庫も小さくて良いよね。」と、話した。
この歳まで、管理職で一人で生きてきたから世間の波に揉まれ、一人で決断してきた男。
大学卒業後同じ会社に勤め、これといって趣味のない生活で貯めた預貯金を無駄にしたくないんだなと、思った。先日ボーナスも支給されたと話していた。
何軒かの量販店をはしごして下見した後、うちでご飯を食べた。
やつは両親に、親戚とはほぼ絶縁状態で妹しかいないので結婚式はしたくないことを話した。「私は一人なんで、その辺りのこと(今思えばなんなのかわからないが、、)にお金をかけるより、今後の二人のために遣いたい。二人で良い家庭を築きたいのです。」
「めがねちゃんのお陰で私には両親ができて嬉しい。二人で親孝行します!」と、話した。
そして父に、「ぶっちゃけ、家電類にどのくらいの費用をご用意して頂けますか?」と、聞いた。
父は、こう言った。
「大切に育てためがねちゃんなので、嫁入り道具として全部出すよ。幸せにしてやってくれ。」
やつは、大喜びしてこう言った。
「ありがとうございます!いやぁ、正直、ボーナスぶっ飛ぶなぁ~って思ってたんですよ。
じゃ、そのお礼に明日の夕食は私がご馳走します。」
「上手いなぁ。」と、今は思う。
両親ともども、丸め込まれ、マインドコントロールされていった。
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